株主代表訴訟
前回までは、取締役の会社に対する責任追及について書きました。
取締役に対する損害賠償について債権者は会社であり、その訴えを起こす場合は、監査役が会社を代表して責任を追及することになります。(非取締役会設置会社では株主総会が、会社を代表するものを選定します)
しかし監査役とはいえ、取締役会では顔を合わせて仲間意識みたいなものもあり、責任追及を怠る場合もあります。
そこで会社法では、株主が会社を代表して取締役を訴える「株主代表訴訟」を規定しています。
※本当は「取締役への責任追及」だけではなく、「役員等への責任追及」としたほうが正確ですが、ここでは取締役にスポットを当てています。
株主代表訴訟の手続き
株主がいきなり訴えを起こせる訳ではなく、以下のような手続きで行います。
6箇月前から引き続き株式を有する株主は、会社に対して書面等をもって、取締役の責任を追及する訴訟を提起するよう請求することができ、株主が請求をしたもかかわらず60日以内に訴訟を提起しない場合、会社は株主に対して提訴しない理由を通知しなければなりません。
この場合、株主は会社の代わりに、自らが原告となって訴訟(株主による責任追及等の訴え)を提起することができます。
※「6か月前から」という要件は、非公開会社では不要というのはお約束です。
上記の「60日以内に訴訟を提起しない場合」には例外があります。
株主は、原則的に提訴請求を経ずに訴えを提起することは出来ませんが、60日も待っていたら「回復することのできない損害」が生じるおそれがある場合、株主は直ちに訴えを提起することができます。
株主代表訴訟は株主一人でも提起できますので、濫用的な訴訟が起こる可能性もあります。そこで、訴えられた取締役は、その訴えが悪意であることを疎明すれば、裁判所は訴訟を提起した株主に対し相当の担保の提供を命じることが出来ます。
株主代表訴訟の手続きについては会社法第847条に規定されています。 条文は長いですが、ここまでまとめた部分を理解できていれば大丈夫だと思います。条文と併せて読んで理解を深めましょう。
第847条(責任追及等の訴え)
- 六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第189条第2項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第423条第1項に規定する役員等をいう。以下この条において同じ。)若しくは清算人の責任を追及する訴え、第120条第3項の利益の返還を求める訴え又は第212条第1項若しくは第285条1項の規定による支払を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。
- 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主」とあるのは、「株主」とする。
- 株式会社が第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができる。
- 株式会社は、第1項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しない場合において、当該請求をした株主又は同項の発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等若しくは清算人から請求を受けたときは、当該請求をした者に対し、遅滞なく、責任追及等の訴えを提起しない理由を書面その他の法務省令で定める方法により通知しなければならない。
- 第1項及び第3項の規定にかかわらず、同項の期間の経過により株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、第一項の株主は、株式会社のために、直ちに責任追及等の訴えを提起することができる。ただし、同項ただし書に規定する場合は、この限りでない。
第847条3項に規定されているように、株主は、「株式会社のために」訴えを提起することが出来ます。(株主自らの利益の為に訴えるのではない。)
株主代表訴訟で損害賠償請求訴訟に勝訴した場合、原告である株主ではなく、「会社に対して」支払うように命令されます。
株主代表訴訟は、あくまで会社が取締役に対して持つ請求権を実現させるための訴訟であることに注意しましょう。