発行等の事前措置
募集株式発行等の手続きまたは内容に瑕疵がある場合、株主は募集株式の発行等をやめる様に請求することが出来ます。
第210条(募集株式の発行等をやめることの請求)
次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第199条第1項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができる。一 当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合
二 当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合
この差止請求は募集株式の発行等において
①法令又は定款に違反する場合
②著しく不公正な方法により行われる場合
①②によって株主が不利益を受けるおそれがあるときに請求できます。
①の法令又は定款に違反する場合でよく争われるのは、有利発行であるのに特別決議を経ていないのは違法な手続きであるという主張が多いようです。
②の著しく不公正な方法とは、「不当な目的」を達成するための手段として募集株式の発行が行われる場合をいうようです。
(なにが不当な目的にあたるかは個別に判断するしかないので、具体的な内容は割愛します。)
発行等の事後措置
瑕疵のある募集株式の発行等が、差し止められることなく効力が発生した場合には、大きく2つの措置が考えられます。
一つは、募集株式発行によって害された利益を回復すること。
一つは、募集株式発行の効力自体を争うこと。
募集株式発行によって害された利益の回復
募集株式引受人の責任
募集株式の引受人は、取締役と通じて著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた場合、公正な価額との差額に相当する金額の支払義務を負います。
例えば、株主A、株主Bが、10株を公正な価額である100万円で引き受けたのに対して、株主Cは取締役と通じて、10株を50万円で引き受けました。
この場合、株主Cは当該会社に50万円の支払い義務が生じます。
金銭ではなく、現物出資を行う場合も同様に不足額を填補する必要が出てきます。
ただし、現物出資を行う場合には、その現物出資財産の価額が著しく不足していることに善意で、かつ重大な過失が無い場合は、募集株式の引き受けに対する意思表示を取り消すことが出来ます。
現物出資財産の価額が不足した場合の取締役の責任
現物出資財産の価額が不足する場合は、引受人だけではなく取締役も填補責任を負います。
取締役の責任は
(1)検査役の調査を経た場合。
(2)過失が無かった事を証明した場合。
以上の場合に免責されます。
現物出資財産の価額が不足した場合の証明者の責任
現物出資財産の価額を評価した「証明者」も不足額の填補責任を負います。
この責任は、証明者が証明を行うにあたり注意を怠らなかった場合は免責されます。
この責任について、募集株式引受人、取締役、証明者の責任は連帯責任となります。
今回説明する責任規定は設立時の現物出資財産が不足する場合と似ているので、比較すると分かりやすいと思います。
第53条と第213条を比較してみましょう。マーカー部分を追って読んでみてください。
ちなみに第213条における「前項第1項二号」は現物出資財産の価格が著しく不足している場合の額を指します。
設立時の現物出資 | 設立後の現物出資 |
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(出資された財産等の価額が不足する場合の責任)]第52条
一 第28条第一号又は第二号に掲げる事項について第33条第2項の検査役の調査を経た場合
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(出資された財産等の価額が不足する場合の取締役等の責任)第213条
一 当該募集株式の引受人の募集に関する職務を行った業務執行取締役(指名委員会当設置会社にあっては、執行役。以下この号において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるもの
一 現物出資財産の価額について第207条第2項の検査役の調査を経た場合
一 取締役等 第1項の義務 |
こうしてみてみると、流れはほぼ共通ですので、設立時の現物出資財産が不足する場合での図解も一緒に見てもらえるとわかりやすいと思います。
もう一つの事後措置としては、募集株式発行無効の訴え、不存在確認がありますが、これは次回に!